薬師堂ほっと通信

「ケーキ屋の親友の話」

クリスマスイブの日、俺はテツヤのケーキ屋へかみさんに頼まれたクルスマスケーキを取りに行った。

 

店の中でテツヤと雑談をしていたら、手を繋いだ女の子が二人入ってきた。

セーターの袖口は伸びてダラダラ、セーター全体が毛玉だらけの傍から見ても貧しそうな見た目だった。

 

上の女の子が「ケーキください」と小さな声で言った。

下の子は色とりどりのケーキと甘い香りのショーケースを見て目がキラキラしていた。

 

「どんなケーキがいいのかな」と聞くと、下の子が「この大きなケーキがいい」と指をさしたが、上の子が小さな声で「そんな高いのはダメ」と言った。

ケーキを見渡し、値段の一番安い一粒のイチゴが乗ったショートケーキを指さし、「このケーキ、一つください」と言った。

 

「ありがとうございます。350円になります」と言うと上の子が小さなボロボロの財布をポケットから取り出し、手に握ったお金をカウンターに差し出した。

確かめると百円玉が2枚と五十円玉が1枚、それとおもちゃの百円玉1枚だった。

 

「これは本当のお金じゃないよ~」と言うと、女の子は顔を真っ赤にし、今にも泣きそうな顔になりながら財布を探した。

異変に気付いた下の子が不安そうに上の子を見上げている。

 

「ごめんなさい、お金が足りませんでした」とぽろぽろ涙を流しながらカウンターにあったお金を掴みかけようとした時、

奥からテツヤの親父が出てきて、「さ~、ただいまからタイムセールだよ。ショートケーキ250円だよ。早い者勝ち~」と言って奥に引っ込んだ。

それを聞いて女の子に「ジャストタイミング」と言って、ケーキの箱を女の子に手渡した。

女の子が伸びたセーターの袖で涙を拭きながら「ありがとうございます」と言って帰っていった。

 

俺はテツヤに、「ケーキ屋のタイムセールなんて聞いたことがないぞ」と笑いながら談笑した。

 

そろそろ店を閉めようかと、シャッターを下ろそうとした時、会社の制服を着た女性が、小さな女の子を連れて入ってきた。

「うちの娘たちが申し訳ありませんでした」先程の女の子二人の母親だった。

家に帰ると上の娘がケーキの箱を出して、「これでクリスマスケーキ食べられるね」と言ったそうだ。

そんなお金どこにあったの?と聞いたら「お財布に250円はあったけど足りなくて。でもタイム何とかって言って250円で買えたよ」と言ったとのこと。

ケーキ屋さんでタイムセールなんて聞いたことがないと言ったら、「ほんとだもん、タイム何とかで買えたんだもん」と泣き出したんです。

ですから、足りないお金を持ってきました。いくらでしょうか?

 

その時、また奥からテツヤの親父さんが出てきて、「うちはケーキの売れ残りが出ると廃棄しなきゃならないから、時々タイムセールをしているんだよ。それに値段を決めるのは店の勝手だから」と言うとまた奥に引っ込んだ。

その女性はおろおろしながら、「じゃあ他のケーキを買わせて頂きます」というのです。

 

一緒に来ていた女の子がロールケーキを見つけると、「このケーキ美味しいの?」と聞いた。

ロールケーキは二切れで250円だった。「このロールケーキ二切れ下さい」と母親が言うと、その女の子は、「お姉ちゃんの分は?」と言った。

 

「お姉ちゃんはイチゴのケーキがあるでしょ」しかし女の子は「私もイチゴのケーキ食べたい」と涙目になっていく。

テツヤの奥さんが「じゃあロールケーキ二切れですね」とロールケーキ丸ごと一本取り出して、四分の一のくらいのところにナイフを入れようとして、テツヤの顔を見た。

その時、テツヤが首を振ったのを見て、三分の一のところにナイフを入れた。

そしてまた三分の一のところにナイフを当てて切った。

その三分の一の大きさのロールケーキ二つを箱に詰め「ロールケーキ二切れ250円です」というと、母親が「そんな、受け取れません」と頑なに拒んでいました。

 

そうするとまたテツヤの親父が奥から出てきて、

「一回切って箱に詰めたケーキは戻せない。それに残ったら廃棄するしかないんだから、食べてもらわなければ困る」と言うとまた奥に引っ込んだ。テツヤの奥さんが、「これ食べてもらわないと私がおこられますから」と笑いながら強引に渡した。

 

母親は頭を何度も下げながら250円を払って出て行った。                 

~ラクリマより~

 

 

感動的なお話でしたね。 ケーキ屋の親父さんそして奥さんの機転が利く、粋な計らい。 

また、二人の小さな娘さん母親の親切にしてもらった事を、わざわざお礼を言いに行く、貧しくてもきちんとされているところ。 素晴らしい方だと思います。

今の子は、家でも学校でもあまり厳しくされず、我慢をするという機会が少ないような気がします。 うちでも、もう少し厳しく、我慢させる必要があるのかもと思いました。